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アリオン100.jpg法政大学アリオンコール HISTORY


初演 1969年5月26日 第17回六連(東京文化会館) 指揮 田中信昭

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男声合唱のためのコンポジション第2番

間宮芳生

 法政大学アリオンコールのみなさんは、ぼくの男声合唱のためのコンポジション(1963年作)をすでに、7回ステージで演奏しているのに、ぼくは、残念なことに、まだ一度もそれをきいていないのです。練習のときに一度きかせてもらって、それは立派な演奏で、大変うれしかったのですが、アリオンは、特に本番につよくて、練習とは見ちがえるような名演奏をする。それはアリオンの伝統であるとは指揮者の田中信昭さんの弁なので、こんどの第6番は、ぜひともステージの演奏をきかせてもらおうと、今日はたのしみにしていたわけです。
 このコンポジション第6番は、今度演奏する、法政大学アリオンコールの依嘱で作曲されました。
 これまでの5つのコンポジションと同様に、第6番も日本の民謡、民俗芸能の数々から、素材を、発想を得たものです。
 昨年、行われた合唱連盟主催の「日本民謡による合唱曲」シンポジウムのときにも、ぼくが主張した本来集団でうたわれる民謡を日本の合唱の新しい方向の一つの重要な基礎として考えようという立場は、この第6番にも、貫かれているわけです。

 楽章は3つあります。
 第1楽章は、岩手県のふるい稗搗唄と、同じ岩手県亀が森村の田植踊の中の掻田打の唄の二つの唄の素材を中心に、男性的労働のふんい気をもって展開されます。

 第2楽章は、はやいテンポと、みじかいテンポのおどりの曲です。これは、青森県八戸地方の、神楽と、田植祭えんぶりの芸能から素材がとられました。阿波踊りのリズムとよく似ていることに気づくでしょうが、こうした現代の人々にも強くアピールする要素が、古い民衆的な芸能の中に数多くあることに驚かされます。

 第3楽章には、少なくとも三つ以上の素材があります。その第1は兵庫県の亀岡神社につたわる風流踊り、第2は埼玉県の木場の労働歌です。風流踊りからとられた、“のりと”にも声明にも似ているのびやかなうたから、いつのまにか、音頭と合唱が、かけ合いでうたう木場の労働歌にうつってゆきます。やがて、音頭の叫び声とともに、膳ばやしの勇壮なかけ声(大分県下海部郡蒲江の大漁膳ばやしより)が、くりかえされて、クライマックスをつくります。

 全体に、前の男声合唱のコンポジションより、さらに男性的な性格の曲になりました。アリオンの、若々しい力のある演奏を期待したいものです。

(第44回定期演奏会パンフレットより)

解説

田中信昭

 五線紙の上に、理論で組立てられた音楽でなく、大地にしっかり素足で立った時、自ら湧き出る素朴な体の躍動と魂の高揚、そして大自然の心への希求、間宮芳生はこんな音楽を求めているのではないだろうか。彼に「コンポジション第六番」の作曲を依頼したのは1967年秋のことである。これは彼が「第五番」を書いてから1年半を過ぎていた。
 長年日本の作品を歌いつづけて来た法政大学アリオンコールの為に男声合唱を是非との私の頼みに、彼はニコリとして「今度は六番だから田園だな」と答えて呉れた。思うに、それ迄各方面からの依嘱を断り続けて来た彼だったが、この時ようやく次作への準備と発酵が始まっていたものと思われる。
 翌1968年5月26日、学生達は熱演一初演は成功した。会場のあちこちでこんな声が聞かれた。「今までのコンポジションとちがう。」「間宮芳生がこの曲を契機に大きく飛躍した-。」
 間宮芳生自身が「田園」と言っている様に、素朴な中にのびやかなうるおいを持つ第一楽章、日本独特の魅力的リズムが一貫して流れる神楽の踊りによる第二楽章、謡曲とも声明ともつかぬ唄い方の「花踊り」ののどかさに続く力強い櫓漕ぎのかけ声が高まる第三楽章。これ等が見事に整理され単純化されてまとまった作品となり、それぞれ独自の素晴しい味わいを持つに至っている。

 実在の素材を用いて作曲したという点ではこれ迄の作品と同様であるが、「第六番」は、素材を集めそれ等を組立て、創り上げたというのではなく、素材そのものにある音楽的感動に間宮芳生がつい乗せられて、彼自身がためらうことなく素直に音楽してしまったそんな作品であると思う。彼が素材を使ったのではなく、素材の音楽と間宮芳生が一体になったとでも言えるだろうか。これが、この作品が古い素材そのままに善かれていながら、しかも非常に新鮮な息吹きを持っているゆえんであると思う。
 これまでコンポジションは難しいという誤った先入観が一般アマチュア合唱界にかなりあった。これは、譜面に表わせない音程やリズムやかけ声、囃し言葉などがふんだんに出てくるし、音組織も耳新しいものであったからであろう。しかしそういう人達にとっても、第六番の誕生によってコンポジションがより親しいものになったことは間違いない。「田園」の窟したものである。
 今後ますます多くの合唱団によってこれ等の曲が歌われ、忘れ去られ様としている貴重な日本古来の音楽的感動を、身をもって体験する人達が増えていくことを切に望みたい。それが本当に身についた時、今迄学んで来た洋楽が日本人の中に定着し、両者が一体となって新たな日本民族の音楽の創造へとつながるのである。
 間宮氏のご健康を祈り、このコンポジション連作の活動が、いつまでも続けられることを心から願っている。

(ビクターレコードのための解説)

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合唱のためのコンポジション第6番について

間宮芳生

 法政大学アリオンコールの依嘱で、1968年4月に完成、5月に、田中信昭さんの指揮で、アリオンコールにより初演された。
 日本の音楽の伝統の中にポリフォニーはないといわれる。リズムのポリフォニーといえるものはあるし、またヘテロフォニーも日本の民族的な発想のスタイルの特徴だが、日本の民俗音楽の音組成を土台にして、単純で明快なポリフォニーが可能なはずで、この曲では、その第一歩という考えがためされている部分が多い。

 第1楽章は、岩手県の稗拍唄を土台にしている。前に述べた、民族的なポリフォニーの可能性への第一の着手である。
 第2楽章は、青森県八戸の神楽のうちの権現舞のうたによっている。プレストの楽章で、阿波踊りと同型のリズムである。
 第3楽章は二つの部分から成る。前半は、兵庫県亀岡神社の芸能を素材としている。声明のようで、のりとのようで、和讃のようでもある。この部分だけ、拍子木がつかわれる。
拍子木は、合唱のメンバーの中の一人ないし三人くらいで打つ。後半の男性的で勇壮なかけ声だけの部分は、大分県の大漁艫囃子によっている。

(全音出版譜のための解説)

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合唱のためのコンポジション第6番

間宮芳生

  日本には、合唱の伝統がないといわれるが、はたしてそうだろうか。なるほど、ヨーロッパ的な意味での、ポリフォニーや和声機能をもった合唱音楽の伝統はなかったかもしれない。(奄美本島や、徳之島の芸能の中には、不完全で、無意識的で、偶然そうなったと思われるものだが、多声のコーラスが見られるが)2人以上の人間が一緒にうたうこと、それを合唱だとすれば、集団が、集団的なある目的や、共同意識によってうたう、例えば、労働のうたや、民間信仰に根ざした芸能のうたなどの多くは、合唱と呼ぶべきだし、それらこそが、日本での合唱の伝統がつくられてゆくための一つの重要な基礎となるべきだ。それはまず、ユニゾンであり、「第二番」でも、この考えは、明確に示されていると思う。そして「第六番」は、その基本的な姿勢から出て、民族的なポリフォニーの様式をさぐってみるという課題へ向かうことになったように思う。

「第六番は」、「第三番」を、しばしば演奏して、民族的な合唱への積極的な姿勢を示して来た、法政大学アリオンコールからの委嘱で、1968年4月に完成、5月26日に、田中信昭さんの指揮でアリオンコールにより初演された。

 第1楽章は、岩手の稗揺唄を土台にしている。前にのべた、民族的なポリフォニーが可能であろうか。ぼくの答えはこれから出されるだろうが、この楽章はそれの第一の着手である。
 第2楽章は、10年来熱愛している、青森県八戸の神楽のうちの権現舞のうたによった、プレストの楽章で、阿波踊りと同型のリズムである。
 第3楽章には、二つの部分があり、前半は、兵庫県亀岡神社の芸能を素材としている。声明のようで、のりとのようで、そして和讃のようでもある。各声部間にかけ合いのようにあらわれる、ゆったりしたポルタメントに特徴がある。この部分だけ、拍子木がつかわれている。後半は、大分県の大漁艫囃子による、男性的で勇壮な、かけ声だけの部分。経過部分には、東京都下の木場の労働のかけ声が配された。

(ビクターレコードのための解説)

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出版:全音楽譜出版社

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録音

岩城宏之指揮 
東京混声合唱団、東京放送合唱団(ビクターレコード)

演奏

法政大学アリオンコール
六連(第17回〈初演〉、第27回)
法関(第7回、第9回、第12回、第14回〈合同〉、第17回、第18回〈合同〉、第23回〈合同〉、第33回、第43回)
定期(第18回、第20回、第23回、第25回、第30回、第38回、第42回、第44回、第49回、第50回、第60回)

オールアリオン
第7回OB六連(立教合同)、第3回OB法関(合同演奏)

東京混声合唱団、関西大学グリークラブ、東北学院大学グリークラブ、コールユニオン、クール・ジョワイエ、茸会、早稲田大学コール・フリューゲル、大阪大学男声合唱団、一橋大学男声合唱団コール・メルクール、中央大学音楽研究会グリークラブ、慶應義塾ワグネル・ソサイエティー男声合唱団、M.AB男声合唱団 ほか多数