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アリオン100.jpg法政大学アリオンコール HISTORY


初演 2004年12月12日 第54回定期演奏会(国立オリンピック記念青少年総合センター大ホール)
指揮 田中信昭 ピアノ 中嶋 香

作品について   

港 人尋

 法政大学アリオンコールの新曲を、というお話があったとき、ここ数年来お付き合いのある金時鐘さんの詩に曲をつけよう、とすぐに思い立った。というのも、この、すぐには呑み込めない武骨な詩に立ち向かうには、男性合唱という形態が理想的だと思えたからである。
 この曲は大きく2つに分かれる。1曲目は『季期陰象』より「明日」。2曲目は『光州詩片』より「冥福を祈るな」である。
 いつだったか、この「冥福を祈るな」という一文に、戦慄を覚えたことがあった。一般に「冥福」という語は、死者への弔いの言葉として発せられる。それは「お祈りいたします」の枕詞であるかのような了解があるだろう。つまり「冥福とはそれを祈るものであり、祈らないものではない。われわれは「祈る」以外の用法を聞いたことがまずないはずである。

 ところがここでは敢えて「折るな」と禁止する。慣用句を敢えて転倒させる、その契機とはいったい何だったか。この巨人と呼ぶにふさわしい詩人の生きざまを考えると、単なる思いつきで書きつけた一句とは到底思えない。むろん光州事件にまつわる血の記憶が、決して短くはない詩の最後のフレーズを導いたには違いない。が、朝鮮半島と日本列島との狭間の歴史を、朝鮮語と日本語との亀裂を、言葉の真の意味で「生き抜いてきた」詩人の、それは徹底した逆説なのである。
 21世紀が訪れて既に数年が過ぎた。世界の、変わることのない混迷の情況のなかで、このような詩が日本の若者によってうたわれることに、ある希望を見いだしたいと思う。詩は読まれるだけではなく、声によって発せられることで、生きた詩となりうる。だから、たった十数分の言葉の、音楽の連なりではあるけれども、この初演を機に末永く大切にしていきたい。

出版/録音 なし

演奏

法政大学アリオンコール
六連(第53回)
定期(第54回〈初演〉55回)