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アリオン100.jpg法政大学アリオンコール HISTORY


初演 1981年5月16日 第30回六連(東京文化会館) 指揮 北村協一

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組曲{蛙・第二」について

多田武彦

 草野心平先生の詩に魅せられてから、もう26年にもなる。昭和29年頃、私は、月に一度大阪へ来られた清水傾先生に対位法を教わっていた。清水先生は「法則ばかりいくら覚えてもそれだけでは駄目だ。先達の作品をよく分析し、その中から自分にしかない独創性の高い作品をどんどん書かなければ駄目だ。そしてそれを批判され、苦しまなければ、上達はしない。」と助言して下さった。
 この助言に従って、習作のつもりで作曲したのが、処女作の組曲「柳河風俗詩」である。案の定、清水先生の鞭が飛んで来た。「きれいに書けてはいるが、男声合唱としての迫力に乏しい。」と。
 「よし! それでは!」というわけで、書店へ出かけたときぶつかったのが「草野心平詩集」であった。爾後、

  • 昭和31年 組曲「富士山」(初演、京都大学男声合唱団)
  • 昭和36年 組曲「草野心平の詩から」(初演、慶應義塾ワグネル・ソサイエティー男声合唱団)
  • 昭和43年 組曲「蛙」(初演、立命館大学メンネルコール)
  • 同  年 組曲「北斗の海」(初演、早稲田大学グリークラブ)

を作曲して来た。

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 草野心平先生の詰の心は、男声合唱音楽の心に、実によく通い合う。「富士山」の「第壱」や「第式拾壱」のように構築性の大きい迫力のあるものがあるかと思うと、「草野心平の詩から」の中の「雨」のような凝集美もある。同じく「草野心平の詩から」の中の「金魚」のような、オーヴァーラップしていく色彩の交錯もあれば、「さくら散る」にみられる抽象画もある。

「北斗の海」の「Berling Fantasy」のような荒々しさもあれば、「富士山」の「作品第辞」のようなほのぼのとした繊細な描写もある。「黒い蛙」のような、凄まじいばかりに美しい幻想性もあれば、「五匹のかえる」のような諧謔性もある。
 こうした多様な表現と、それを縫って行く見事な言葉のつながりを、男声合唱曲にそのままおきかえてみると、それだけで草野先生の詩と音楽のすばらしい個展が開かれる。
 作曲する側にとって必要なことは、これらの一つ一つの詰の個性をそこなわないように曲づけすることである。凄みのある筈の詩に明るい長調の旋律や和音をつけてみたり、インテンポの行進曲風の詰に矢鱈とテムポルバートを指示してみたり、本来レシタティヴオを要求している筈の諸に、リリカルな曲想を求めてみたりしてしまうと、折角の草野心平先生の詩自身のもつ音楽がこわれてしまう。

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 このたび、東京六大学合唱連盟第30回記念演奏会の合同演奏曲の作曲を依頼される栄に浴した。依頼状に「300人が力強く歌える…・‥」と書いてあった。私は、迷うことなく、こんなときのためにとっておきの「蛙」を選んだ。昭和43年にも組曲「蛙」を書いているので、今回は「蛙・第二」とした。同じ昭和43年に、組曲「北斗の海」の表題を頂戴するため、所沢市秋津の草野心平先生のお宅を訪れたとき、先生に直々、「誕生祭」や「ごびらっふの独自」を朗読していただいた。その時の先生のつやのある低い声は、今も私の耳許を離れない。「砂河原のまんなかの・…‥」や「るてえる びる もれとりり がいく ‥‥‥」の冒頭の低音部の位置づけも、実にここにはじまる。

*  *  *

 演奏会のご成功をおいのりする。また六連が50周年を目指してますます発展されることを心からおいのりする。私も75才まで生きて、六連の50周年を聴きたい。

出版
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録音 なし

演奏

東京六大学合唱連盟(第30回合同〈初演〉)

 関西学院グリークラブ