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アリオン100.jpg法政大学アリオンコール HISTORY


初演 1964年6月27日 第3回法関(大阪産経ホール) 指揮 田口雅彦 ピアノ 武谷安子
改訂版初演 2003年6月28日 第3回OB・現役合同演奏会(国立オリンピック記念青少年総合センター大ホール) 指揮 井口 亨 ピアノ 渡邊淳子

『貧窮問答歌』について

中村茂隆

 この作品は、法政大学アリオンコールの委嘱を受けて、1964年に作曲され、第3回法関交歓演奏会(6月27日・大阪産経ホール、7月4日・東京共立講堂)において、指揮・田口雅彦、ピアノ・武谷安子(大阪)、八木登代(東京)、男声合唱・法政大学アリオンコールの皆さんにより初演されました(関=関西大学グリークラブ)。初演のプログラムに私が書いている、いささか青臭い言葉を、敢えて以下に引用させていただきます。

  日本人の精神的な故郷である万葉集を手がけたい、というのは私のかねてからの念願でした。
 そこには現代の私達が既に失ってしまい、もはや、とり返すことさえ出来ないかもしれないような大事なものが、至極当然のように溢れたぎっており、それらに触れるたびに、「こうしてはいられない」という気持をかり立てられてしまいます。
  今、私はその中から第一作として山上憶良の“貧窮問答歌”をとりあげました。
  現代生活の中で私達は「わかっているが、どうにもならない」気持に何事もが支配されてしまって、不満を口の中でつぶやくことはあっても、人間として当然な叫びさえ、叫ぶ力を次第に失っていきつつあるのではないかと思います。
 「わくらばに人とはあるを 人なみに吾もなれるを」という憶良の叫びを、私自身の言葉として、大声で叫びたいと思います。
  白鳳の盛期に続く天平の挫折の時代に歌われたこの歌は、時代を超えて現代の私達に何ともリアルにひびくではありませんか!(後略)

 この度、法政大学アリオンコールOB・オールアリオンの皆さんが、当時を思い起こして再演して下さることになりましたが、コーラスパートは残っているものの、ピアノ伴奏はないということで、作曲者の私の手元にないかと、問い合わせがありました。
 私は自分の過去の作品を大切に保管しているつもりでしたが、なぜかこの作品はいくら探しても見つかりません。そのうちオールアリオンは練習を開始しましたので、私は初演の録音をオープンリールからカセットテープに起こして、送ってくれるようお願いしました。しかし、40年近い昔の録音を聴きとることで、ピアノ伴奏を再生させようという試みは容易ではなく、私は方針を変え、あくまでも録音は参考としながら、ピアノの伴奏のほとんどを、新たに作曲することにしました。
 こうして、30代前半の私と70歳になったばかりの私の奇妙な共同作業が始まりました。ここにお届けするのは、その結実です。
 このような機会を与えて下さったオールアリオンの皆さん、出版楽譜の製作にご苦労をおかけしたメロス楽譜の西野一雄氏に、この場をお借りして、心からお礼申し上げます。
 2003年4月
(メロス楽譜「作者のことば」より)

山上憶良歌より貪窮問答歌

風まじり雨降る夜の 雨まじり雪降る夜は
すべもなく寒くしあれば 堅塩を取りつづしろい
酒湯酒うち啜ろいて 咳ぶかい鼻びしとるびしに
しかとあらぬ鬚かき撫でて 吾をおきて
人はあらじと
誇らえど寒くしあれば 麻衾ひき被り
布肩衣ありのことごと 著襲えども寒き夜すらを
栽よりも貧しき人の 父母は飢え寒からむ

妻子どもほ乞いて泣くらむ
この時はいかにしつつか
汝が世は渡る 天地は広しといえど
あがためほ狭くやなりぬる 月日ほ明しといえど
あがためは照りやたまわぬ 人皆かあのみや然る

わくらばに人とはあるを
人なみにあれもなれるを
綿もなき布肩衣の 海松のごとわわけさがれる

襤褸のみ肩にうちかけ 伏盧の曲盧の内に
直土に藁とき敷きて 父母は枕の方に
妻子どもは足の方に 囲み居て憂い吟い
かまどにほ煙吹き立てず

こしきにはくもの巣はりて
飯炊く事も忘れて ぬえ鳥ののどよび居るに
いとのきて短き物を 端きると云えるが如く
楚とる里長が声は 寝屋処まで来立ち呼ばいぬ
かくばかりすべもなきものか 世の中の道

出版 メロス楽譜
貧窮問答歌2.gif

録音 なし

演奏

法政大学アリオンコール

  • 法関(第3回〈初演〉)
  • 定演(第14回)
  • 男声合唱団オールアリオン
  • 第3回OB・現役合同演奏会(改訂版初演)